ひきこもり当時の渡辺篤はカーテンを締め切り、空を見ることが全くなかった。
外が快晴であればあるほど、空の下で人は生産性をあげることができる。ある者は仕事が捗り、ある者はレジャーに出かけ、ある者は愛を育む。青空はその下に居る者に対しその価値を届ける。だからこそ、部屋にのみ居続ける当時の渡辺にとって、空が快晴であればあるほど、そうした幸福を運ぶ強く発光した鮮やかな青を見るのが辛かった。
孤立は辛い。けれど、孤立は孤立を維持し続けなければそれもまた辛いのだ。カーテンを閉じ切った。
ひきこもりの最中、当時見続けていたインターネットのストリーミング配信。一部の一般配信者たちはノートパソコンを持って屋外に出かけ、様々な街の様子を放送し続けていた。それを毎日、起きている間中横になってずっと視聴していた。不思議とインターネット越しの屋外の世界には嫌な気がしなかった。媒介/メディアを通した空の色は、部屋の中にこもり続けている者にも、優しく届いたのだった。
和室シーリングライトにはめ込まれている”青色”は「アイムヒア プロジェクト」でひきこもり当事者に写真募集をしていた期間、快晴だった日に渡辺が撮影した青空の写真群。
《空を見せたい》
2019年
和室ライト、アクリル板、写真
「アイムヒア プロジェクト」写真集出版記念展 "まなざしについて"(高架下スタジオSite-Aギャラリー)会場風景
Photo: Keisuke Inoue(3枚とも)