(2019年9月13日締切ました)

プロジェクト「修復のモニュメント」では

一緒に作品を作ってくれる

ひきこもり当事者を募集しています。


 

自身も3年のひきこもり経験のある現代美術家・渡辺篤が、

ひきこもり当事者と対話型の共同制作を行います。

閉ざされた場所に居る人たちの声を作品を通じ社会に発信したい ‼︎ 

 

《Photo Album》2019年

 

 


 

「修復のモニュメント」とは

 

 ひきこもりの当事者それぞれにとっての<怒り、とらわれ、遺恨、悲しみ、抑圧など>の感情に関する造形物(ここでは"モニュメント"といいます)を美術家・渡辺篤がコンクリートで制作し、それを対面する両者が共に一旦ハンマーで破壊します。

 その後、 陶芸の伝統的な修復技法「金継ぎ(きんつぎ)」を引用し、両者で修復を進めます。これは負の記憶の認識の更新を目指す意味があり、その際モニュメントにまつわる事情やひきこもった経緯、言えなかった思いなどについてお話しいただきます。渡辺からも自身の過去のひきこもり経験などについて話し、互いに対話していきます。

ひきこもり当事者Tさんとの制作風景/Photo: Daichi Takahashi

 昨今、精神疾患やひきこもりへのケアなどの現場で注目されている「オープン・ダイアローグ」をはじめ、見過ごされてきた当事者の声の発露は、本人にとっても社会にとっても重要視されはじめています。今回の企画では、作品制作と共に対話を行います。

Photo: Daichi Takahashi

 今回用いる修復技法の「金継ぎ」は、壊れて用途を果たさなくなってしまった器などを、ひび割れ部分を金で装飾しながら修復する手法です。金継ぎは、壊れてしまった経緯や傷も含めて慈しむ思想が込められているといえます。また、これはトラウマケアにおける「リカバリー」とも繋がります。リカバリーとは「回復」を意味 しますが、”元あった状態に戻す”のではなく、”困難な状況も受け入れ肯定しながら今の状態で上手に適応していく(元通りを目指すわけではない)”といったニュアンスの意味であると考えてます。(ピーター・A・ラヴィーン著「トラウマと記憶」ではトラウマケアと金継ぎの背後にある精神性の関連が指摘されている)

 今回の場合での金継ぎの意味には、負の記憶についての認識を「再構築する」他に、「塗り替える」、「うまく間合いを図る」、「共存する」などの捉え方の可能性があると思います。それぞれの共同制作者との対話の中でそうした考え方も決めていきたいと考えています。

制作の経緯については天井からビデオ撮影し、それは映像作品になります。
 応募の中から選考させていただいた約5名の1 人ずつとこの制作工程を行い、 完成したモニュメントと映像作品を、来年2020年3月頃に行う展覧会(予定)で発表する予定です。

 また、対話の内容や作品図版などは今後、渡辺篤の他の展覧会での発表や書籍出版などの可能性があります。

 



 

<応募概要>

  • 募集対象者は「ひきこもり当事者」だけに限定せず、「ひきこもり経験者」、「ひきこもりを持つ家族」、「支援者」でも構いません。
  • 美術制作の経験は全く無くて構いません。
  • 本作品は、参加することが即時的なひきこもり状態の解決を目指すものではない事をご了承下さい。社会への当事者事情の周知を広げていくことや、当事者自身の認知更新に役立てていただければというねらいがあります。
  • 基本軸となるプロジェクトのコンセプトは渡辺篤が考えたものです。共同制作者として、ひきこもり当事者をはじめとする方とのコラボレーションを行います。”その方のご事情をモチーフ”に、一緒に作品制作を行い、「当事者表現」の伴走者になれたらと考えています。
    • 個人を特定できる情報は公開せぬように進めますが、そのリスクを完全にゼロには出来ない事をご承知下さい。
    • 体調面などでの不安がある方は慎重にご検討ください(ひきこもり当事者の場合、ある程度外出も出来る状態が前提にあるといいかと思います)。
    • 実制作は2日間ほどです。
    • 全国どこからの応募でも構いません。出張もします。
    • 作品の権利は基本的に共同著作権となります。
    • 締め切りは特にありませんが、候補者が5名ほど決まり次第締め切る場合があります。 
      →追記:2019年9月13日締切ました

(2019.08.10公開、09.07更新)



 

今回制作をする「修復のモニュメント」シリーズの前身となる作品をいくつかご紹介します

共同制作に参加希望の方は参考にして下さい

 

 

 

 

 

MONUMENT 1

 

《Photo Album》

〜ひきこもり当事者Tさんにとっていじめの記憶の詰まった卒業アルバム〜

 

 

 

 

《Photo Album》2019年、制作:渡辺篤+Tさん|モニュメント:コンクリートに金継ぎ 

Photo: Keisuke Inoue

 

《Photo Album》

2019年、ビデオ(10分50秒)

出演:渡辺篤+Tさん、映像編集:Sakura Himura 

 

 


”ひきこもり元当事者である美術家・渡辺篤”と”ひきこもり当事者のTさん”との共同作品。

 Tさんはいじめの被害経験をきっかけにその後10年以上に渡ってひきこもり生活を続けた。僕が対話の中で感じたのは、Tさんは怒りの表明や抵抗をあまり得意とはしない優しい性格だったのだと思う。しかし長いひきこもりの時間の中で、ある時Tさんは、いじめの加害者たちの写真も掲載された豪華で分厚い卒業アルバムを破壊した。その時のアルバムはもうこの世には無い。おそらくその時の行為の意味をTさん自身、まだ迷いの中で受け止め切れてはいないように見えた。

 ひきこもりというテーマについて当事者環境に身を浸して取材や交流を続けていた僕は、様々な当事者会でなぜかよく顔を合わせる男性が居た。物腰が柔らかくいつも丁寧な言葉遣いの人だった。それが後に交流をすることになったTさん。ある雑誌媒体で、Tさんがこの卒業アルバムの破壊の経験について手記を書いているのを私が読んだことをきっかけに共同制作の提案をした。文章は言語化しづらい感情をどうにか客観的に言葉にし始めているという印象を持った。

 それから、Tさんに詳しく記憶の中の卒業アルバムについて情報をもらい、僕がそれをもとにコンクリートで再現をし、その後一旦二人でハンマーで叩き壊したのち、「金継ぎ」修復を進めた。

 Tさんはロックが好きなのだけれど、ロックはまさにカウンターカルチャーだ。怒りや抵抗の表明は必ずしも暴力的でいけないものとも限らない。そして私はアートの歴史自体にもそうした側面があることを知っている。

 Tさんとの対話の中での彼の提案によって、壊れた破片を完全に修復し直すということはせず、部分的にかけらをそのまま残すことにした。金継ぎは負の経験を転換させ、ポジティブな価値にすることと言えるが、Tさんの現実は必ずしも経験の全てを価値更新出来たわけでもない。そしてそれが必要とも限らない。もしかしたら、とらわれをとらわれのまま、許せないものを許さないまま残していく部分もあっていいのかもしれない。

 これからも再構築を続けるTさん自身の様子を表す破片も展示台の上に一緒に置いた。

 

《Photo Album》2019年、テキスト:Tさん

Photo: Keisuke Inoue

…作品の一部としてTさんが卒業文集の形式で原稿用紙に書いたテキスト


 

「卒業に寄せて」

 私は中学生の時に受けたいじめをきっかけに不登校になってから、学校に行っていませんでした。

 卒業式の日は、職員室に親と一緒に行って先生が拍手をする中で卒業証書を受け取りました。「卒業アルバム」をその時にもらったと思いますが、あの恐ろしい学校と同級生の写真を見るのがこわくて開けませんでした。そして高校もすぐにやめて、十年以上のひきこもり生活になりました。大好きな祖母も亡くなり、心がかわきききっている時、 傷つくとわかっているのに自傷行為のように卒業アルバムを開きました。私の中に、 中学校への憎しみは、生きたまま新鮮に保存されていました。

 そして卒業アルバムを殴りました。 豪華で硬いカバーで、右手の拳が痛かったです。何度も何度も殴り、壁に思い切り叩きつけたら、縦に真っ二つに割れました。そして同級生の写真の目を刺し、破り捨てました。”

 

 



 

 

 

 

MONUMENT 2

 

《わたしの傷/あなたの傷》

〜ひきこもりの息子と母が共に住んでいた家〜

 

 

 

 

《わたしの傷/あなたの傷》2017年 、 モニュメント:モルタルに金継ぎ

制作:渡辺篤+渡辺の母、原型制作:Hidemi Nishida

 …渡辺がひきこもり当時暮らしていた実家(のミニチュア)。1階奥の部分が渡辺の部屋だった。

 

《わたしの傷/あなたの傷》2017年ビデオ(31分31秒)

出演:渡辺篤+渡辺の母、映像編集:Keisuke Inoue

※期間限定公開中

 


現代美術家の息子(私)と母親との合作である。

 昔、私がひきこもっていたときの扉のこちら側で持っていた傷やその痛みの体験は、同時に扉の向こう側の傷にもなっていた。そのことに気づいてしまったことが私がひきこもりを終えた理由のひとつでもある。
 ひきこもって3ヶ月ぐらい経った頃だったか。扉の向こうで1度だけ、助けたいと言ってくれたものの、それから数ヶ月間ドア扉をノックすらしてくれなかった母。次第に怒りが込み上げて、ひきこもった当初のきっかけよりも、その見捨てられたようにも感じられた状況に対し、怒りは小さな部屋を充満させ溢れ出るほどに膨らみ続けていった。しかしある時、どのように関われば良いのか悩み続けて硬直し、扉の向こう側で憔悴しきっていた母の姿を知ることになる。

 この作品では、モルタルで作った渡辺家の家屋のミニチュアを、ハンマーを用いて両者で一旦叩き壊し、その後、当時を振り返る対話や痛みの告白をしながら、2人で修復を試みている。
 私自身が過去に起こった深い傷や、底なし沼のような囚われは、自分以外の誰かの傷に気付くことや、アートにおける発表活動に向き合うことで昇華されていったのだろうと思う。
 囚われは、自分を客観視できたときにその固まったロックを外すことができる。1人で心悩む時にこそ、誰かの傷に傷気づき痛みに寄り添う事で、自分の痛みへの近視眼的な執着心を和らげる。つまりそれは人を救い、また、自分自身をも救うことになる。

 見殺しにされたくない弱い私は、傷ついた誰かの痛みを知る必要がある。誰もが見殺しにされない社会を私は作りたい。

《わたしの傷/あなたの傷》2017年、展示風景(「Absences ー不在ー」N-mark Gallery、2018年)

インスタレーション| ビデオ 

…映像内の対面する2者を俯瞰するこの映像は、テーブル型のモニターで上映され、鑑賞者同士も対面するように対角に座る。

 

《わたしの傷/あなたの傷》2017年、展示風景(「Absences ー不在ー」N-mark Gallery、2018年

インスタレーション



 

 

 

 

MONUMENT 3

 

《ドア》

〜破壊と解放の過去を再生させるドア〜

 

 

 

 

《ドア》2016年、コンクリートに金継ぎ、塗料

展示風景(「黄金町バザール」2016年)|Photo:Keisuke Inoue

 

今はもう存在しない記憶の中の扉をコンクリートで再生した後、また壊し、そして金継ぎ修復を施した。

 

以下は「アイムヒア プロジェクト」ウェブサイトより引用

ーーーひきこもっていた私にとって、もはや自分自身ではその状況から脱することができなくなっていた頃、頼みの綱は母の存在だった。けれど、母自身による想像を越えた困難には認識が追いつかなかったようで、手をこまねき、当初は「助けたい」と言ってはくれたものの、結果的には何ヶ月も扉をノックすらしてくれない日々が続いた。 やがて私は母からも見捨てられたと感じ、いよいよ一生この部屋から出ずに死んでいくのだと覚悟し始めた。しかし、心の深い底には、僅かながら自然と湧き出る怒りもあったのだ。同じ家の中で社会的撤退を今なお続けている息子を助け出してくれない母に対して、段々と恨みの感情が芽生えていき、ひきこもった当初の、社会への恨みから矛先が意向し、母への怒りも高まっていった。 ひきこもってから随分と月日が経ったある日、私の怒りはいよいよ爆発して、母の居るリビングの扉を蹴破った。「扉はこうやって開けるんだよ!!」と怒鳴った。それは、困窮した息子を放置し続ける、母に対しての必死のアピールのつもりだった。

 しかし、そのことは私の思いに反し、状況をますます悪化させた。物音を聞き付けた父は、家に迷惑物の怪獣が現れ、その悪を成敗するために現れたヒーローかのように振る舞い、とはいえ結局は父自らではどうすることもできず、警察を呼んだ。ーーー

 

《ドア》(部分)2016年、 コンクリートに金継ぎ、塗料

Photo:Keisuke Inoue 

 

《プロジェクト「あなたの傷を教えて下さい。」》 2017年(2016年-)、コンクリートに金継ぎ、塗料

"当時、介入してこなくなった母に対して怒りが募り、数ヶ月間ひきっこもっていた部屋を一旦出て、

居間の扉を蹴破った。「扉はこうやって開けるんだよ!」 と怒鳴った。”



 

 

 

 


 渡辺 篤 | Atsushi Watanabe

 


2019年6月

 

 

 

 

 

【プロフィール】

 

現代美術家。大学卒業直後に足掛け3年のひきこもり経験を持つ。ひきこもりを終える経緯で自身の姿や部屋を写真撮影した。”永いひきこもりの時間は、無駄な時間ではなく、この写真作品を撮影するために必要な「役作り」や「場作り」だったのだ。”と意図的に認識を切り替える試みを行い美術家として復帰。アーティストの立場から、孤立の問題や心の傷にまつわるテーマで近年活動を続けてきた。

 そこでは、当事者性と他者性、共感の可能性と不可能性、社会包摂の在り方についてなど、社会/文化/福祉/心理のテーマにも及ぶ取り組みを行う。 社会問題に対してアートが物理的・精神的に介入し、解決に向けた直接的な作用を及ぼす可能性を追求している。

 2019年にはひきこもり当事者自らが撮影した部屋の写真集「I'm here project」を出版。国内外で注目を集め、100件を超えるメディアで紹介された。

 作品発表以外では、当事者経験や表現者としての視点を活かし「ブレイクスルー」、「ハートネットTV」、「クローズアップ現代+」(すべてNHK)などのTV出演や、雑誌・新聞・webに執筆多数。「ひきこもり新聞」2018年5月号に当事者手記掲載。

 


2011年2月11日(ひきこもりを終えた日)

 

 

 

 

1978年  神奈川県 横浜市 生まれ

2007年  東京藝術大学 美術学部 絵画科油画専攻 卒業 

2009年  東京藝術大学大学院 美術研究科 絵画専攻(油画)修了 

2010年  7ヶ月半自室からほとんど出ない生活を送る(2011年まで)

2013年  ひきこもり生活から美術家として復帰、以後精力的に活動を続ける

 

 

【主な展覧会】 

〈個 展/プロジェクト展〉 

2019 「ATSUSHI WATANABE」Daiwa Anglo-Japanese Foundation、ロンドン

2019 「アイムヒア プロジェクト写真集出版記念展 "まなざしについて"」高架下スタジオSite-Aギャラリー、神奈川

2017 「わたしの傷/あなたの傷」六本木ヒルズ A/Dギャラリー、東京 

2014 「止まった部屋 動き出した家」NANJO HOUSE、東京 

2014 「ヨセナベ展」Art Lab AKIBA、東京 

〈グループ展〉 

2019 「雨ニモマケズ(singing in the rain)」BankART Station / R16スタジオ、神奈川

2017 「藝「大」コレクション パンドラの箱が開いた!」東京藝術大学美術館、東京 

2016 「黄金町バザール 2016 −アジア的生活」黄金町、神奈川 

2009 「ASIA PANIC」光州ビエンナーレホール、韓国

2008 「チバトリ」千葉市美術館、千葉

【その他】

2018/2019 「アーツコミッション・ヨコハマによるクリエイティブ・インクルージョン活動助成」に採択。 

2016/2017 「アーツコミッション・ヨコハマによる若手芸術家育成助成」に採択。

2016 「ARTISTS’ GUILD」加入。 

 




<お知らせ>

 

▶︎【締切ました】

ひきこもり当事者/経験者と共同制作を行う新プロジェクト「修復のモニュメント」5名の募集に対し15名のご応募があり、13日に締切ました。応募・情報拡散頂いた方々、ありがとうございました。全応募者と対話し、年度内に制作する方を決め、順に制作していきます。(2019/9/17)

 

▶︎【テレビ取材/動画】

「修復のモニュメント」の前身となる作品(ひきこもり当事者Tさんとの共同作品)の制作の様子が

NHKのウェブサイト「ひきこもりクライシス”100万人のサバイバル”」内で動画とテキストによって詳しく紹介されています。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/hikikomori/articles/survival_13.html?fbclid=IwAR2QHa-eR8axtQ7MWQq3lzUFyOjUfwZaqe51kLD6PYwq7Ri8uTncOvXw3Mg

(画像はNHKウェブサイトより)

(2019.08.22)


助成:アーツコミッション・ヨコハマ