「アイムヒア プロジェクト」は
ひきこもりをはじめとする孤立を感じる人々の声や当事者事情を
自身も過去にひきこもり経験のある現代美術家 渡辺篤が
当事者と協働する形で社会に向け発信し
アートが社会に直接的な作用をもたらす可能性を模索するアートプロジェクト
《アイムヒア プロジェクト》2018
Installation view R16studio|©️2018 Atsushi Watanabe
2018年度には、ひきこもり当事者たち自らが撮影した部屋写真を募集。
集まった約160枚を編集し、写真集「I'm here project」を出版。
また、インスタレーション作品として、横浜・ベルギーで展示された。
国内外のマスコミや美術・福祉・医療関係者、
さらには当事者やそれを支える家族らからも多くの注目が集まった。
《アイムヒア プロジェクト》2020
Installation view STUK|Photo by Kristof Vrancken|©️2020 Atsushi Watanabe
《修復のモニュメント「病院」》(部分)2020
Photo by Keisuke Inoue|©️2020 Atsushi Watanabe, ©️2020 I'm here project
2019年度には複数人のひきこもり当事者と直接対話をしながら
各々にとってのトラウマや生きづらさをテーマに
破壊と修復(再構築)による共同制作の企画「修復のモニュメント」を行なった。
展覧会は途中、新型コロナの影響を受け、一時休場。
感染対策とともに一気に世界に広がった孤立の課題を暗示する内容ともなった。
《修復のモニュメント「01」》(部分)2020
Video Shooting/ Editing by Sakura Himura, Shooting Assistant by Kota Nakano
©️2020 Atsushi Watanabe, ©️2020 I'm here project
《月はまた昇る》2021年
展示風景:同じ月を見た日(R16 studio、神奈川)
ビデオ(18分53秒、ループ再生)、プロジェクター、スクリーン(3300×450×3300mm)
月の写真撮影:アイムヒア プロジェクト (らばんか、Ayako、marmotte、たかはしじゅんいち、道後ミカ、増山士郎、蒼晶、渡辺 篤|順不同)
©︎Atsushi Watanabe 2021, ©︎I'm here project Photo: Keisuke Inoue
2020年度からは、地球上の孤立感を感じる全ての人を対象とし
「月の観察/ 撮影」をきっかけとする遠隔交流や
困窮する不可視の他者へのまなざしや想像力を誘発する
「コロナ禍」及び「アフターコロナ」に対するアートプロジェクト「同じ月を見た日」を進める。
《Your Moon》2021年
展示風景:TURNフェス6(東京都美術館) 7200×900×1800mm(可変)
月の写真撮影:アイムヒア プロジェクトメンバーら約50名
©︎Atsushi Watanabe 2021, ©︎I'm here project 2021
「アートスタジオ アイムヒア」2021年
©︎Atsushi Watanabe 2021, ©︎I'm here project 2021
2021年度からは、横浜・弘明寺にて制作スタジオを構える。
またその一部をリノベーションし、オルタナティブスペースを立ち上げる。
本格始動は2022年秋頃。
アイムヒア プロジェクトの関連企画、クリエイターたちの発信の場、町に開かれたワークショップ、美術業界の互助システムの模索などを行っていく予定。
アフターコロナに向けて2021年末からスタートする企画。
フリーハグは「FREE HUGS」などと書かれたプレートを掲げ、知らない誰かと抱き合う行為。
コロナ以前、渋谷駅前でそれを見かけない日は無かった。
私はフリーハグが嫌いだ。リア充にリア充が抱きつき、それで世界の何を変えられるのだろうと思っていた。
世界中で実施された外出禁止令や自主隔離。人々は孤立に触れた。
しかしコロナが収束すれば、人々はまた後ろを振り返らず進んでいくだろう。
ところがコロナ以前も以後も孤立し続ける存在がこの世界には一定数居る。
例えばそれは、ひきこもりと呼ばれる人々。
私はそこに行き、ハグや対話をしたい。
彼らの多くはフリーハグをしたことない人ばかりだろう。
しかし、きっとこの企画になら参加してみたいと思う人が集まる予感がある。
<写真集「I'm here project」について>
写真集『I'm here project』は、日本をはじめとする多くの場所で深刻な社会問題となっている孤立の在り方「ひきこもり(※1)」や、それにまつわる問題に対し、新たな「当事者発信」の形を模索し、当事者の尊重と社会への周知や問いを提示するアートワークである。 2018年、ひきこもり当事者自らが撮影した部屋の写真を募集した(※2)。結果、約40名から合計約160枚(※3)が寄せられた。これらは本来見ることはできない閉ざされた空間の貴重な写真だ。
また本企画は、歴史的にマスメディアやアートがその権力性を用いて、困窮した当事者や社会的弱者を搾取的に取り扱ってきた動向(※4)を、当事者表現による逆照射によって批判する構図も取っている。
企画主催者である渡辺篤(現代美術家)自身、過去に足掛け3年間の深刻なひきこもりを経験した元当事者である。”ひきこもってしまった永い時間が無駄なものだったとするならば、それを引き受けて再出発していくこともまたとても辛いことだ。けれど、今ここに居る自分の姿や部屋のあり様を撮影する事で、経てしまった永い時間を「写真作品に必要な制作期間」だったという事に意味を変換出来るのではないだろうか” 。 そう認識を切り替え、のちに美術家として社会復帰を果たした。人生における心の傷や困窮の時間もまたクリエイティブな価値にする事はきっと可能だ。 アイムヒア プロジェクトは、孤立した不可視の存在やその声を無い事にはさせない為、彼ら彼女たちの表現に伴走する。
※1…日本の厚生労働省は「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」と規定しているが、「単一の疾患や障害の概念ではなく、様々な要因が背景になって生じている」のが実態であり、国内だけでも100万人のひきこもりが以上居ると言われている(参考:中高年ひきこもり61万人 初の全国調査、若年層上回る|朝日新聞)。
※2…写真投稿者全ての個人情報を保護し、写真の匿名性を守る事、本人以外からの投稿を受け付けない事、謝礼を払うことなど、極力丁寧な規約の提示や合意形成を心がけた。
※3…一部は2014年に実施した同様企画のものを含む。
※4…テレビの特集番組などは、ひきこもり当事者の部屋の扉を蹴破って押し入り、説教をしたり施設に軟禁するなどする業者を賛美し、当事者を悪しきもののように報道してしまったきた歴史があり、近年支援者や当事者らによって批判されている(参考:テレ朝「TVタックル」を精神科医らが批判、暴力的手法で「ひきこもり当事者」を連れ出す映像を放送)。また、現代アートのジャンルに限っても国際的に活躍する写真家が元モデルによって現場での搾取的事情が告発されるなどした(参考:その知識、本当に正しいですか?|KaoRi.)。